2026年3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。世界中のスター選手が激突する夢の祭典を前に、いま球界を揺るがしているのが「選手の保険問題」です。
プエルトリコ代表の主将フランシスコ・リンドーア(メッツ)ら主力選手が「保険適用外」と判定され、代表チームがボイコットを示唆する異常事態にまで発展しています。なぜ、出たいと願うスター選手が「書類審査」で弾かれてしまうのか?その複雑な仕組みと、今回浮き彫りになった2つの拒絶理由を徹底解説します。
この記事のポイント
- WBCの保険は選手ではなく「球団の年俸」を守るためのもの
- 保険料高騰の背景には、前回大会のスター選手の重傷がある
- 適用外となる主な理由は「手術・離脱歴」と「37歳定年制」
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1. WBCにおける「保険制度」の正体とは?
まず誤解されがちなのが、この保険は「選手の治療費」を払うためのものではないということです。その真の目的は、「高額な年俸を支払う所属球団(MLB球団など)の損失補填」にあります。
WBC期間中に選手が負傷し、シーズンを欠場することになった場合、その期間の年俸を保険会社が肩代わりします。しかし、保険会社が「この選手は怪我のリスクが高すぎる」と判断し、保険適用を拒否(不適格判定)した場合、リスクはすべて球団が背負うことになります。
数十億円という年俸を支払う球団にとって、無保険の状態で選手を送り出すことは、文字通り「裸で戦場に行かせる」ようなもの。そのため、保険が下りない=代表辞退、という流れが常態化しているのです。
2. なぜ今大会、審査がこれほどまでに厳しいのか
今大会で審査が極めて厳格化している背景には、2023年の前回大会で起きた「悲劇」があります。ホセ・アルトゥーベやエドウィン・ディアスといったトップスターが大会中に重傷を負い、保険会社は巨額の支払いを余儀なくされました。
この結果、保険料は跳ね上がり、審査基準はかつてないほどシビアになりました。米メディア「ジ・アスレチック」の報道によると、今回の審査では特に以下の2点が決定打となっています。
① 直近の手術歴・長期離脱(60日以上のIL入り)
選手本人が「今は完治している」と主張しても、保険会社は過去の事実を重視します。プエルトリコ代表のリンドーア選手の場合、オフに右肘の手術を受けた履歴がハードルとなりました。現場のコンディションよりも、「60日間の負傷者リスト(IL)入り」といった事務的な履歴がリスクとして機械的に処理されるのが現状です。
② 「37歳」という非情な年齢制限
今大会から顕著になったとされるのが、年齢による足切りです。原則として37歳以上の選手は保険対象外とされており、ベネズエラ代表のミゲル・ロハス(ドジャース)らがこの規定の犠牲となりました。「MLBのシーズンは戦えるのに、なぜ2週間の短期決戦に出られないのか」という不満が選手間で噴出しています。
3. 「無保険」でも出場できる特例はあるが……
理論上、保険が下りなくても出場する方法は一つだけあります。所属球団が「保険なしでも構わない」と承諾にサインすることです。
しかし、これは極めて稀なケースです。過去にはデトロイト・タイガースがミゲル・カブレラに対して行いましたが、これは彼が球団のレジェンドであり、引退イヤーだったという特別な敬意があったからこそ。現役バリバリで、今後のチーム成績を左右するスター選手に対して、リスクを丸抱えする球団はまず現れません。
「ドジャースでプレーできるのに、なぜ代表ではダメなのか」
(ミゲル・ロハス内野手のコメントより)
4. まとめ:夢の舞台を阻む「構造的な欠陥」
WBCは回を追うごとに大会としての価値を高め、選手の「愛国心」や「熱量」も増しています。しかし、その熱量とは裏腹に、ビジネスとしての「負傷リスクの押し付け合い」が深刻化しています。
年俸が高騰し続けるMLBスターと、リスクを回避したい保険会社。この板挟みになっているのが、純粋に国旗を背負って戦いたいと願う選手たちです。この構造的な欠陥を解決しない限り、ファンが望む「最強国決定戦」の実現には、常に冷や水が浴びせられ続けることになるでしょう。
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